※上部にある「私のプロフィール」で、私のことを「知って」から読むと、より楽しめるかもしれません。
私は小学4〜6年まで塾に通っていた。
中学受験に備えるために。
週6で。
文字通りの「Cram」School。
もし、小学生に労働基準法が適用されるなら、確実にアウトだった。
小学5年になると、よりレベルの高い授業を受けるため、京都駅にある大規模校舎にも通うようになった。
毎週土曜日に。
小学生だけで。
電車で。
クラスは、国公立コースと私立コースに分かれていた。
私と悪友S、Rは同じ私立コースだった。
これは、過酷な授業を終えた後の復路の物語である。
20時、開放。
普通の小学生なら、そのまま家へ帰る時間だ。
しかし、まっすぐ帰るような奴はここにはいなかった。
サンダーバードも、新快速も、スーパーはくとも、はるかも、貨物列車も、そして観光客も行き交う巨大な駅、京都駅。
その改札内で「鬼ごっこ」をしていたから。
まずは切符を購入する。
私は運賃表など見ない。
毎日乗る路線だから当然。
しかし、私の後ろで列を成している「お客さん」はそのことを知らない。
私は、
「あの子何も見ずに切符買っとるやん。まさか…、全駅の運賃を暗記してるのか?」
と尊敬されていると思っていた。
勿論、誰もそう思っていない。
そのことを知らない私は、鼻高々で改札へ向かう。
切符を通す。
ぴよぴよ。
「まぬけ」なメロディーが響き渡る。
さっきまでの「鼻高児童」は一瞬で俯いた。
恥ずかしかったし。
そのまま切符を取り去った。
さて、鬼を決めよう。
「ひーとりもんがおーおーに」
私の地元では「一人もん」(一人だけ違う手を出した奴)が鬼になる。
結果は、今日「も」Rが鬼。
なぜ今日「も」なのか。
これは偶然ではない。
私とSは特に仲が良かった。
だから、校舎から出口への階段を降りる途中、前を歩くRの背中を見ながら、Sと私は毎週こんな極めて悪質な「カルテル」を形成していたのである。
(なお、公正取引委員会には内緒である。)
「今日もグー・チョキ・パーの順な。」
この瞬間、鬼ごっこは鬼ごっこではなく、「グル鬼ごっこ」となった。
「じゃあいくで〜」
鬼になったRが30秒数え始める。
「いーち、にー…」
「にーい」を聞く前に、Sと私は全力ダッシュ!
この加速は、後ろに引いたチョロQを離した瞬間よりも速かった。
ドダダダッ!
車両が見えた。
よし!
車内へ飛び込む。
ダッ!
空席発見。
クロスシートを四人向かい合わせから二人席に荒々しく変更する。
ガッコン!
着席。
ドスッ!
そして二人同時に顔を伏せる。
ハァハァ。
息を切らしながら、小声で小話を始める。
「坂東太郎筑紫次郎四国三郎って語感おもろない?」
「いや、西向く侍のほうがおもろいやろ。」
発車放送が流れる。
顔はまだ伏せたまま。
プシュー
よし、勝った。
と思い顔を上げた瞬間。
ドドンッ!
誰かが駆け込み乗車。
「Rか!?」
慌てて顔を再び伏せつつ、恐る恐る見てみた。
…違った。
見知らぬ疲れ切ったおじんでした。
こっちは命懸け、おじんは残業帰り。
プシュー、リンリン、ウィーン。
列車が動き出す。
ようやく顔を上げる。
鬼から逃げ切った。
座席も取った。
しかも221系だった。
ミッションコンプリートである。
そこから本格的な雑談が始まった。
私たちは毎週、このようにして「鬼ごっこ」をやっていた。
しかし、Rからは一度も異議を申し立てられたことはない。
Rは私たちの「グル」に気付いていても、敢えて付き合ってくれていたのか。
はたまた、「鬼」として探し回ること自体が好きだったのか。
京都駅の改札を通るたび、「ぴよぴよ」を聞くたび、あのホームをつい見てしまう。
もう鬼はいないのに。
あれから十数年。
スマホなんて誰も持っていなかったあの時代。
真相は闇の中だ。
今の時代なら、グループLINEで真相は聞けたであろう。
Rよ、あの鬼ごっこ、覚えてる?
あと一つだけ。
最初から気付いていたよな?

